安全な通貨交換業取引所を目指して(2018冬号)

<はじめに>
従来、事業資金の調達方法として、資産の売却、金融機関に依存する借入のほか、市場を利用する株式や債券の発行が行われてきた。これらの従来型の資金調達方法は、十分な資産や資本等に基づく信用のある企業にとっては有効な手段であったが、資産や信用のないスタートアップ企業にとっては有効な手段ではなかった。スタートアップ企業にとっては、エンジェルやベンチャーキャピタルによる出資等しか有効な手段がなかった。そればかりか、信用のある伝統的な企業にとっても、新規事業のための資金調達は簡単ではなかった。そこで近年注目を集めているのが、クラウドファンディングやICO(Initial Coin Offering)である。
クラウドファンディングは、特定の製品やサービスに対して一定額のターゲット金額を定めて資金提供者を募り、出資に対して予め約束したリターンを返す仕組である。一方、ICO はビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨を用いて特定のコミュニティのための特別なトークン(通常ユーティリティトークン)を発行し、有償で譲渡することで資金調達を行う新しい仕組である。トークン自体はコミュニティにおいて自由に設計できるので、実際にコミュニティで使用されるトークンを発行すれば良いのだが、現実は資金調達のみを目的として発行され、実際の価値など何もない、いい加減なトークンが多いことも事実である。そのため今後は米国を中心として、SEC(証券取引委員会)の規制を受ける証券同様に、トークン設計や発行・販売にも厳密な手順が要求されるセキュリティトークンのみが認可されていく方向にある。そうなれば大きな金額を運用する機関投資家も参加でき、資金調達の新しい手段として大きく成長していくと考えられている。
仮想通貨を従来の法定通貨やほかの仮想通貨と交換する場所を、仮想通貨交換業取引所と呼び、取引所自体が保有する仮想通貨を販売するほか、第三者である譲渡者と譲受者をマッチングすることを業とする。日本では、最大のbitFlyer をはじめ、BITPoint やUOINEX など全16 社が登録されている(2018 年9 月現在)。ところが、これらの取引所の情報セキュリティ対策は、従来の証券取引所などと較べて十分とは言えず、監督官庁からの指導を受けるなど大幅な改善が求められている。今のままでは、将来のセキュリティトークンを扱うのは問題外であり、セキュリティトークン成長の大きな妨げとなることであろう。
従来の仮想通貨の基本的技術であるブロックチェーン自体にセキュリティ上の脆弱性があり、また即時決済ができないなどの問題があることは機関誌2018 年秋号ですでに指摘した通りであるが、ここでは仮想通貨の交換を行う取引所のセキュリティに焦点を絞り考察する。

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