ブロックチェーンを超えて 貨幣の進化 (2018秋号)

<はじめに>
古来人類は、「決済手段」、「価値の保蔵手段」、「価値尺度」の3 つの機能を持つ貨幣を発明することで、部族を超えて、大陸を超えて、巨大な経済を発展させてきた。美しい貝殻を、巨石を、貴金属を媒体とし、近代においては信用を礎とした持ち運びにも便利な紙幣を発行した。偽造貨幣の弊害が広く認知される中、いよいよその最終形といわれる暗号貨幣がその片鱗を現しつつある。
1960 年代に発明されたインターネットは、1990 年代に商用利用可能となり、1993 年にWorld Wide Web (WWW)と最初のブラウザーであるMosaic※2 の利用が解放された。続く1995 年に世界中で最も多くの人々が使用するMS-DOS がWindows95 にアップグレードされると、インターネット上での商取引が爆発的に増加することを見越した多くの先駆者たちが、今度はインターネットで使用できる貨幣(価値を持つ疑似有体物としてのデータ)の発明に乗り出した。1995 年までには百を超える新しいアイデアが紹介され、そして事業化された。しかし新しい世紀を迎えることができた事業は1 つもなかった。まだ貨幣を作れるほど暗号技術は成熟していなかったのである。人類は真の暗号貨幣の出現のために、暗号技術の完成を待つこととなった。
20 世紀最後の年、すでに脆弱性が見過ごせないレベルに達した暗号技術の新しい標準※3 が決められたが、それでも暗号貨幣を創造できるレベルには届かなかった。ところが、2009 年、人類への寄与などとは全く異なる目的のために、90 年代の技術を使い、従って大きな脆弱性を包含する前近代的な実験的試みが紹介された。
貨幣自体を創造することを放棄し、プライドの高い90 年代の研究者にとってはタブーとされた台帳方式と
いう苦肉の策を用いた。これがブロックチェーンを用いるビットコインであり、一般には暗号貨幣ではなく暗号通貨の変種と考えられている。古典的な貨幣はその交換と同時に決済を完結する。いちいち記帳の必要はない。一方ビットコインは記帳した台帳の正確性にその価値が依存する。したがってこの台帳をいかに正確に記帳・保持するかだけが重要で、正確な台帳維持のためには、即時決済は犠牲にされ、一旦終了した決済自体が覆されることもある。このように不完全な仕組ながら暗号通貨を全世界に知らしめた功績は大きかったが、2017 年8 月に筆者がサンフランシスコにて行ったブロックチェーン崩壊の講演から間もなく、翌月の中国をはじめとして各国がビットコインを禁止することで、壮大な実験は終焉を迎えた。

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